髙橋芳郎氏(翠波画廊オーナー)インタビュー第1回 コロナ禍のアートマーケットの今と未来

  1. インタビュー

アートマーケットで人気のジャンルとは

AL:

どの世界も流行り廃りはあります。今は、バンクシーやバスキアといったストリートアートが人気なのでしょうか。

髙橋:

やはりバンクシーが別格で、それに関連する画家もつられて人気です。バスキアやキース・へリングが1970年代に登場してきた頃は、街に違法な落書きをする彼らをストリートアーティストと言っていました。ところが最近は「グラフィティ」などとも呼びます。

グラフィティというのは、「オレはここにいるぞ」と、同じ街に落書きをする仲間への自己主張です。動物がマーキングするのと同じように落書きをすることから、そのような呼び方がされるようになりました。当然、動物のマーキングのような落書きですから、描く場所を巡っての縄張り争いなども繰り広げられているようです。

かつて、バスキアやキース・ヘリングの街角の「落書き」が話題を集め、やがてそれらが画商の目に留まりました。正規の画廊が展示会を開催することで出世街道を歩み始め、今では彼らは美術史に名を残すまでになりました。

《ポリス・キッズ》バンクシー

バンクシーも同じストリートアーティストとしてカテゴライズされることが多いのですが、バスキアやキース・へリングとは異なり、社会問題を風刺した落書きをSNSで配信し話題を集めています。画商の力を頼らずに、アーティストとしての地位を築き上げたという意味では、単なるストリートアーティストの枠を超えたアーティストです。

犯罪者がメディアを利用して話題を集める「劇場型犯罪」というのがありますが、それと同じでバンクシーの活動は「劇場型アート」と私は呼んでいます。それらを踏まえると、バンクシーはアート業界のあり方すらも変えていき、後に美術史に名を残すアーティストになるだろうと考えています。

AL:

バンクシー作品の高騰は世界的な傾向でしょうか。

髙橋:

ええ、そうです。バンクシーは世界的な人気です。各地でオークションが開かれ、バンクシーの作品が登場すれば、世界中のいろいろな国の人々が競り合っていますね。

ただ、日本で同じことを行った場合、グラフィティはどうしても「落書き」と思われてしまいがちです。また、公衆道徳の意識が高い日本では落書き自体に抵抗があり、そういう意味では、このジャンルのアーティストは出にくいのかもしれません。

誤解のないように言っておきますが、いくら「グラフィティはアート」だと言っても、公共の場に許可なく描けば法律に反することがあります。それは日本に限らず、世界共通です。

現に、記憶に新しいことでいえば、2020年7月、ロンドン地下鉄の車両内にバンクシー作品が描かれていました。コロナ禍に対する皮肉がモチーフとされています。それを清掃員がバンクシー作品と知らず、消してしまいました。

このとき、世論としては、この清掃員に対して批判は多く出なかったようです。彼は、あくまで自分の任務をまっとうしたに過ぎないのですから。

AL:

日本でも2011年に、渋谷駅に掲示されている岡本太郎の壁画《明日の神話》に、福島第一原子力発電所の事故を連想させる絵が描き加えられたことがありましたね。

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ArtLimb編集部の編集部員が自ら足を運んで、いろいろなアート情報を紹介しています。

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