ここ数年、「アートとビジネス」という関連キーワードが席巻している。アマゾンや書店を覗いてみても、類書は数多い。その多くは、アートの感性や美意識がビジネスに活きる、といった内容である。
一般的にアートの世界は狭く、興味のある人たちだけが触れるものだ。時に、ゴッホやピカソ、ダヴィンチなど、有名作家の有名作品が企画展に登場すれば、入場者数は飛躍的に上がることはある。ただ、それも単発で終わってしまう。
そういう意味でも、「アートとビジネス」はアート界にとってみたら、思わぬ「副産物」だったのかもしれない。これをブームと捉えるかどうかは、今後の目に見えた成果によるだろう。実際、感性と美意識が養われたことで、新たな日本発の製品やサービスが誕生したとき、正当な評価がなされるのだろう。
では、日本のアートマーケットに、このようなブームはどう影響しているのだろうか。「日本のアート産業に関する市場レポート2019」(文化庁/一般社団法人アート東京)によれば、2019年の日本のアート産業の市場規模は3590億円だという。この中には、絵画などの作品購入、ポストカードなどの購入、企画展チケットなどの購入が含まれる。また、過去3年と比較したとき、微増ではあるが、2019年が最高値となる。
興味深いのは、同レポートで、「美術品を鑑賞することのプラス効果」についてアンケートを取っていることだ。その回答で、「創造力の養成」に肯定的なのは54%。これは、ひょっとしたら、昨今の「アートとビジネス」の関連に伴う影響なのかもしれない。
1980年代、1990年代は、日本企業が名画と呼ばれる作品を高額で落札してきたケースがあった。バブル崩壊以降、失われた30年を歩む現在の日本に、かつてのようなアートに対する過剰な投資は見られなくなっているといえよう。
しかし、高額絵画を手にする人だけが、アート好き、あるいはコレクターというわけではない。企画展に出かけ、1枚のポストカードを買うことから、アート好き、コレクターの道は始まる。
「アートとビジネス」というキーワードがブームではなく定着し、より日本人がアートを身近に感じられるようになるには、まだ時間を要す。コロナ禍で人々が心身ともに疲弊しているなか、アートが担うのは根源的な癒しでもあるのだろう。また、コロナ禍がもたらしたアート産業への影響が、どう数字に表れていくのか、それも注目していきたい。