サザビーズで朝食を 競売人が明かす美とお金の物語
フィリップ・フック 著、中山ゆかり 訳/フィルムアート社
今回は、世界の美術市場や近現代アートの基礎や価値などを学びたい方に打ってつけの1冊をご紹介。
著者のフィリップ・フックは、世界の二大オークションの一つ、サザビーズのディレクター。かつてはもう一つのクリスティーズでもディレクターを務めていた人物だ。よって、当然ながら、世界のアートマーケットに精通している。
本書はA5判で470ページもあるので、なかなかのボリュームフルだ。全部は紹介しきれないので、気になったテーマやトピックを紹介しよう。なかでも興味深いのが「そこそこのアーティスト」「美術市場で人気の高いアーティスト」の項だ。
前者について、こう書かれている。
ある種のアーティストたちは、人気がある、あるいはさほど難解ではないという理由で見下される。(中略)その誰もが国際的な美術市場で高値をつけ、ファンに大きな喜びを与えている。
それに該当するアーティストは、ベルナール・ビッフェ、ジャン=ピエール・カシニョールなどが挙げられている。
後者については、50名挙げられている。「その作品が最も高価であり、また人気のあるモダニストのアーティストたち」だという。
ビエール・ボナール、ジョルジュ・ブラック、ポール・セザンヌ、マルク・シャガール、サルバドール・ダリ……キリがないが、当然、ピカソやゴッホも加わる。彼らの作品について、わかりやすく短めに解説されているので、うんちくとして知る分にもちょうどいい。
最後のパート「市場模様」もおもしろい。著者自身がオークション会社にいるため、いろいろなエピソードが載っている。
なかでも「新興市場」の項で紹介されている日本人コレクターのエピソードは、苦笑いを浮かべざるを得ない。
著者が日本人コレクターのマンションに行ったとき、部屋の壁に1点の作品もない。それを尋ねると、「絵はここにありませんよ」と返ってくる。続いて彼は、「マンションに飾るには、絵はあまりに高価すぎますからね」と。どうやら絵は銀行の地下金庫にあるという。
バブル時代の日本を彷彿させるエピソードだ。
本書は専門用語についても解説してくれているので、アートに詳しくない人でも楽しめる。内容がとても濃いので、じっくり読んでみてほしい。