2020年10月6日にサザビーズ香港で行われた現代美術セールで、ポーラ美術館(神奈川・箱根)がゲルハルト・リヒターの《Abstraktes Bild (649-2)》(1987)を約30億円で落札したのは記憶に新しい。この落札価格は、アジアにおけるオークションで落札された欧米作家作品の過去最高額だという。
この作品の当初の予想落札価格は16億~19億円だったが、結果的に約1.5倍。サザビーズによると、10分間もの入札合戦が繰り広げられたそうだ。
また、同セールは、総落札額約93億円で、サザビーズ・アジアで開催された現代美術のセール(単独の所有者によるものを除く)としては過去最高額となった。コロナ禍によるアート市場への影響の懸念など、どこ吹く風だ。
なお、ポーラ美術館は購入を認めているが、現時点での展示予定は「未定」と伝えている。
ゲルハルト・リヒター(Gerhard Richter, 1932年〜)は、東ドイツ・ドレスデン生まれ。言わずとも知れた、世界最高の評価を受け、最も注目される現代アーティストの一人だ。御年88歳のリヒターの作品は、なおその価値を高めている。
リヒターはかつて自作の価格について、ギャラリストのフレッド・ヤーンに次のような考えを示していた。
リヒターはいつも受け身の態勢で仕方なく値上げしたように見えたし、そんなとき彼は決して幸せそうではなかった。
『評伝 ゲルハルト・リヒター』
1997年の話で、当時、51cm×56cmの小品の落札価格は3万8000ドル、日本円にして約420万円だった。
リヒターは自身の作品が高騰していることを自覚した上で、誘惑に負けず、常に自己批判を繰り返し、作品の質を落とさないことに努めていたという。
今、美術界に限らず、世界中で話題となっているバンクシーと比較すると、リヒターの作品が高額で落札されていることがわかる。
リヒターの作品が30億円で落札された2週間後、10月21日には、やはりサザビーズ・ロンドンでバンクシーの作品《ショー・ミー・ザ・モネ》が約10億3500万円(約775万ポンド)で落札された。バンクシー史上2番目の高額落札価格だ。
バンクシーの最高落札価格は、《英国の地方議会》の約13億円。それと比較しても、リヒターの落札価格は高いと言えるだろう。
今後、バンクシーの作品はさらに高騰する可能性があるが、リヒターのその他の作品の落札価格を見ても(歌手のエリック・クラプトンが手放した作品は、約27億円で落札された)、安定した価値と見なされているのだろう。
なお、リヒターに関して、もっと知りたいという方は、『評伝 ゲルハルト・リヒター』(ディートマー・エルガー 著/清水穣 訳、美術出版社)がオススメだ。440ページ超という大書であるが、2017年発行ということもあり、近年のリヒターの活動や作品などを知る上でも参考になる。