美術品を売りたいときの注意点とは
AL:
買い取ってほしい絵画があったとします。単純に最初はどうすればいいのでしょうか。
髙橋:
もちろんご持参いただいても結構ですし、送っていただいても問題ありません。
ただ、誤解されている方がいますが、絵画=美術品とは言えません。私たちが買い取れるのは、あくまで「美術品」です。美術品とはセカンドマーケットで、しっかり値段がつくもの、つまり流通価値があるものを指します。
反対にいえば、流通価値のない作品は買い取れません。例えば、まだ若い作家の方、すでに亡くなられていて市場価値がなくなってしまった作家の方も含まれてしまいます。
お持ちいただいても買い取れないものもありますので、できれば事前にメールやLINEで画像をお送りいただけるとお客様の手間も省けますし、私たちも助かります。
また、作品を売るときも、先ほどの話のように、画廊の専門性というものを知っておいた方がいいでしょう。例えば、私の画廊では、エコール・ド・パリの作品を多く扱っています。ということは、その作品を好む方、コレクションしている方がお客様としていらっしゃいます。
つまり、購入してくださる方がいらっしゃいますので、買取もしやすいですし、多少高く買い取ることもできます。
こういうことは事前に知っておくといいでしょうね。
AL:
もちろん、買取の際、状態は重要だと思いますが、その他に注意点はありますか。
髙橋:
作品の状態については、ひと目見ればおおよそわかりますから問題ありませんが、一番の問題は真贋です。プロの鑑定家は、「世の中には本物と同じ数の偽物がある」と言います。私たちが買い取るときに、最も注意しないといけないのは作品の真贋です。
絵画などを送っていただくとき、物故作家の場合、鑑定書がついています。その確認をし、状態を見ます。この情報を事前にいただければ、およそ買取価格は決められます。ですので、買取までの日数はそれほどかかりません。
また、鑑定書がない場合です。鑑定書は物故作家の作品を売買するときに必要ですので、これを取得するところから始まります。私の画廊で買い取らせていただくことになりましたら、鑑定代行もいたします。日本だと、月に1度、鑑定委員会というものがあります。海外の場合は、もう少し時間を要します。
AL:
買取を希望される方は、どういった方が多いですか。
髙橋:
そうですね、米国だと「3つのD」という言い方をします。どなたかが亡くなったとき(Death)、会社が倒産したとき(Disaster)、離婚したとき(Divorce)。こういうケースに美術品が売られることが多い、と。
しかし、日本の場合は一概には言えません。所有していたけれど、飽きてしまったので売る。財政的に苦しくなったので売る。親から引き継いだけれど、管理が大変なので売る。こういうケースでしょうかね。
日本は多湿ですから、特に管理が大変です。また、親御さんが掛け軸が好きで多く所有していても、お子さんの住まいにそれを飾る場所がないし、趣味が異なる、ということもあると思います。
AL:
相続も大変なのでしょうか。
髙橋:
美術品は評価が難しいですから、税務署泣かせですね。真贋の見極めは税務署にはできません。偽物となると、価値が一気に下がってしまいます。ですから、あまり揉めるということはないと思います。
AL:
偽物は買取の際も多いのでしょうか。
髙橋:
稀にありますね、鑑定書が取れないとか。最も危険なのは、ネット系のオークションで購入したという美術品です。これらは多くの割合で偽物が紛れ込んでいます。さすがに稚拙な贋作は見ただけで、私たちはわかります。
AL:
そういう人たちも、本物であればラッキーくらいなのかもしれません。ただ、本物だと思って落札していたら、ガッカリしますね。
髙橋:
少し突っ込んだ話をしますと、鑑定基準は変わることがあります。
かつてユトリロの鑑定家はポール・ペトリデスという方でした。これがあるときから、ジャン・ファブリスに代わりました。
ペトリデスはユトリロを世に送り出した画商で、ユトリロの死後、鑑定はペトリデスが行い鑑定書を発行していました。また、ユトリロのカタログレゾネ(作品目録)も編纂し出版しています。
そのペトリデスの鑑定書の付いた、あるユトリロ作品が偽物だと、ユトリロの法定相続人のファブリスが言い出し、裁判を起こしました。その結果ファブリスが勝ち、それ以降、ユトリロの鑑定はファブリスが行うことになりました。
しかし、なぜペトリデスが偽物の鑑定書を書いたのか、高齢となり鑑定する眼が衰えたのか、経済的理由なのか、今となってはわかりません。
かつては正規だったものが、時代が変わると通用しない、ということが美術業界では時々あります。これは業界に関わっている専門的な人間でないと対処できない問題です。